須弥山の麓で

32歳ゲイです!彼氏持ち。 日々の日常、思うことをダラダラ綴ってます。

僕の地元は瀬戸内海の人口数千人の小さな島だ。

時代の流れとともに、大きな橋が架かる隣の島を横目で羨みながら、連絡船を使い本土の高校へ通ったのが15年前。

「地元の近くで働いたら」という両親の願いを聞かず、今の街で就職したのが10年前。

近所にコンビニは当たり前、電車は10分おきに来る。地元とは比べ物にならないくらいの便利な生活。しかし、便利になった反面失ったものも多い。


そんな一つに闇がある。


小学生の頃、この時期になると友達とよくカブトムシやクワガタを取りに雑木林で一日を過ごした。

狙うはオオクワガタ。ノコギリクワガタやミヤマクワガタもなかなか嬉しい。

しかし、見つかるのはコクワガタやカブトムシのメスばかり。たまにオスのカブトムシもいたが、僕の地元ではたいして珍しくもなかった。

その日もお目当ての虫が見つからず、落胆して母にそのことを話していたら、となりで聞いていた父が突然「出かけるぞ」と一言。


父は良く言えば寡黙、悪く言えば言葉足らずで、何を考えているのかわからないことがよくあった。「尻に敷かれている」といのではなかったと思うが、我が家の舵は母が握っており、父が自分から何かを提案することはほとんどなかった。

そんな父の発言に母も僕も驚いたが、父から誘われることなどめったになかった僕は、胸を膨らませ、言われるがまま手を引かれ家を出た。


外はもうとっくに日が暮れ、街灯が立っている通りから一本脇道へ逸れると、そこには本当の闇があった。

薄暗い懐中電灯に照らされた足元。光があたらないところに足を踏み入れると、一生出てこられないのではないかと錯覚してしまう。家を出る時の胸のワクワクは、いつしか恐怖に変わっていた。

虫の鳴き声や、砂利道を歩くサンダルの音も、昼間とは全く違っていた。感覚がどんどん研ぎ澄まされていくのがわかる。

父の手をぎゅっと握ると、

今まで黙って歩いていた父が、僕の不安をかき消すように「ついたぞ」と一言。

足元の懐中電灯の明かりが前方を照らし、つられて顔をあげると光の先に自動販売機が一台あった。


そこには自動販売機の光に誘われた虫たちがたくさん集まっていた。

カブトムシ、クワガタ、カナブンに羽虫。

昼間の虫取りで思うような成果をあげられなかった僕に対する父からのプレゼントだった。


都会の夜は明るい。

だが時々、そんな明るい夜の中でも、得体の知れない闇のような恐怖に襲われることがある。そんなとき、あの日の父の大きくて温かい手は、今でも闇の中で尻込みしている僕の手を優しくしっかり握っていてくれるのである。